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本づくりとプロモーション
同時進行がヒットを生む

出版事業部 第5課
編集長 外山 圭子

――出版事業部の第5課では、どのようなジャンルの書籍を扱っているのですか。

外山 5課は、主にビジネス書籍を担っています。書き下ろしも翻訳書もありますが、いずれもそのときどきのビジネスの潮流を捉えた実用書が中心です。ここ2、3年で私が担当した書籍だと、『グランズウェル』『クラウド化する世界』『REMIX』『ソーシャルメディアマーケター美咲』などがあります。また、ハーバード・ビジネス・スクールは良書も多いので、シリーズとして毎年のように発行していますね。名著とされる『イノベーションのジレンマ』をはじめ、直近では1月中旬に、これと同じクリステンセン教授による『イノベーションのDNA』を発行しました。

――翻訳書と書き下ろしでは、考えるところや編集のポイントが異なりますか。

外山 そうですね、まったく同じではありません。翻訳書は、すでに出版された国である程度の反響を得ている本を扱うことが多く、イノベーションやクラウド化など一般のビジネスパーソンでも関心を持ちそうなトレンドを追っているので、そのジャンルの啓蒙書としての位置づけで発行しています。ときには、日本にはまだそのテーマが早すぎてしまうこともあるのですが……。たとえば『グランズウェル』などは、発行した2008年当初はまだピンと来る人が少なかったせいか伸び悩みましたが、1年、2年と経つうちに広がって、今ではベストセラーになっていますね。
一方で、書き下ろしの書籍はゼロから企画を立ち上げて編集・制作していきますので、オリジナルならではの、より日本のビジネスの現場に即した書籍になるように注力しています。翻訳書がそのジャンルの体系的な知識を得たり専門家の見解を学んだりするものだとしたら、書き下ろしは現場の担当者が実際に課題を解決していけるような実践的な視点を重視して企画しています。当社には、これと同じような考え方で運営している『MarkeZine』をはじめとするWebメディアがありますから、書籍とWebメディアとで読者の親和性が高いことを活かして、新刊発売の告知をしたり先行して一部を公開したりと連携してプロモーションを行っています。

――手がけたもののなかで、特に大きな反響があったのはどの仕事ですか。

外山 昨年3月に発行した書き下ろし書籍『ソーシャルメディアマーケター美咲』ですね。実際にソーシャルメディアマーケティング事業を展開している企業の社長を著者に迎えた本で、タイトルどおり"美咲"という主人公がソーシャルメディアマーケターとしてさまざまな課題に突き当たり、乗り越えていくストーリー仕立ての1冊です。
単純なノウハウ本ではなく、ストーリーを追いながらこの職業ならではの難しい点や解決策を示していく構成や、アニメのキャラクターのような主人公を立てた装丁にも反響をいただきましたが、この本はプロモーションにとても力を入れたんですね。美咲のスペシャルサイト、Amazonでの動画公開、MarkeZineでの告知、それから美咲のTwitterアカウントの開設・運用など、Webを中心にさまざまな企画を展開しました。その結果、ソーシャルメディア上で随分と話題になったり、「ラジオNIKKEI」からラジオドラマの打診を受けて実現したりと、これまでの当社の書籍にない広がりを生み出すことができました。この仕事で当社の社長賞を受賞したことは励みになりましたし、3月には第2弾の発行を控えているんです。

――本のプロモーションにソーシャルメディアを使うのは、なかなか難しそうですが……。

外山 確かに、簡単だとは言えません。特にTwitterは、実施期間を区切ったとしても、うまく対話を続けていかなくてはむしろマイナスになってしまうので、スタートしたときには腹を括った感じはありましたね(笑)。本の内容に関連したセミナーを実施するなどのプロモーションは、翻訳書でもこれまでによく行っていますが、ソーシャルメディアを使うのは初めての試みで、試行錯誤する部分も大いにありました。
どの書籍のプロモーションもそうですが、『ソーシャルメディアマーケター美咲』については特に、著者に力添えいただいたからこそ実現した施策だと思っています。サイトの開設やキャラクターを実際に動かしていくには、ただ設定すればいいというものではありません。人の興味関心を得るにはうまく波をつくらないといけないので、これら一連の施策をたたみかけるように展開できたのは、ソーシャルメディアマーケティングに詳しい著者ならではのことでした。
今後はこの経験を活かして、他の書籍でも複数のメディアをうまく組み合わせたり、ソーシャルメディアを使ったりするプロモーション施策を展開していきたいと思います。今後の書籍の企画としても、ソーシャルコマースやソーシャルCRMなどのSNS領域のテーマに関心があるので、さらに探っていくつもりです。

――プロモーション施策を考えるのも、書籍編集者の仕事なのでしょうか。

外山 これからの時代は、プロモーションの視点やスキルはほとんど必須になるんじゃないかと思っています。書籍の編集担当者というと、つくるところまでが仕事だと思われる方も多いかもしれませんが、今後は編集者が企画の段階からプロモーションの視点を組み込んでいくことが、ヒットを生み出すひとつのポイントになるでしょうね。
もちろん、書店やECサイトに本が露出して購入されていくのは、当社の書店営業担当、取次や書店の担当者さんやサイトの担当者さんなど複数の人の協力があってこそですが、前々からプロモーションを考えていれば、発売時に大きく販売を後押しすることができます。ちょっと大変ではありますが、本ができあがってから施策を考えるよりも、制作しながらプロモーション企画も進めていく方がインパクトはずっと大きくなるはずです。

――書籍編集者として、どんな人に来てもらいたいですか。

外山 翔泳社は、新しい試みに対してとても寛容な会社だと思います。興味を持っていること、やりたいことについて臆せずに発言できる雰囲気がありますし、それこそ1年目の新人でもどんどん企画を出してきます。どの課も企画の精査は厳しいんですが、それに難しさを感じてめげてしまっては、ちゃんと本の形になるまでやり抜くことはできないんじゃないでしょうか。
もちろん、粘れば通るというものではありませんが、今の世の中に何が求められているのかをしっかり見抜いて、その上でやりたいと思うなら工夫を重ねて何度でも挑戦してもらいたいですね。自分の価値観をきちんと持ち、常に成長したいと思って行動できる人を歓迎したいと思います。
書籍の編集者は、1人ひとりが担当書籍の最初から最後にまで責任を持つ、いわば個人商店の経営者のようなものですが、一方で会社組織でもあるので、自立はしていても独立しているわけではありません。それぞれの仕事に邁進しながら、応援し合える場が整っていますので、お互いに刺激を受けながら、より役立つ本を提供していけたらと思います。