「のれんを守る」ためには、専門家と当事者の団結こそが重要
 

同族企業の事業承継・相続には法律だけでは解決が難しい問題がたくさんあります。本書では、生命保険会社で多くの事業継続や相続のサポートをしてきた著者が実際にあったトラブル事例を取り上げながら解説します。もちろんそれぞれのエピソードは個人が特定できないように配慮がなされていますが、いわゆる「骨肉の争い」や「泥沼のトラブル」といった言葉がふさわしい内容ばかりです。特に身内、同族系の企業の場合、「何となく」で済まされてきたトピックがのちに大問題となることも多くあります。著者は、こうしたトラブルを防ぐためには、当事者と専門家がきちっと団結する必要があると述べています。事業継続には税理士、弁護士、金融機関などが関わっていますが、それぞれの利害に応じたピンポイントの対策だけではなく、トータルなケアが必要とされるのです。


事実は小説より奇なり……13のドラマチックな事例で解説

それでは事業継続や相続に関して本書ではどんなトラブルが取り上げられているのでしょうか。一部の例を見てみましょう。
 
  • 昭和のはじめに創業した製造業者、4代続く間に株式が一族40人にまで分散(優良企業ほど株式分散は起きやすい)。
  • 終戦直後に創業された繊維業者、創業者が95歳で亡くなるが遺言がなかったために相続人が共有する状態に。兄弟間で争いが起こる(こちらは近年のケース。コロナ禍で遺産分割の話し合いもできない状態に。何が起こるかわからない)。
  • 著者の実家の例。祖父が戦前に八百屋を創業しスーパーマーケットに。母の弟である叔父が社長として経営を行っていたが急死。銀行融資に経営者の「個人保証」を取られていたばかりに、母に借金(連帯保証債務)がのしかかる危険が生じる(ほかの銀行への借換が可能となりギリギリで相続放棄を踏みとどまる)。

これらのトラブルは当事者に法律の知識がなかったことから起こったと言えます。少しでも法律の内容を知っておく、さらに頼るべきところは専門家に頼る姿勢が重要です。さらに、本書では、経営を人間の体に例え、近所の「かかりつけ医」で気軽な相談ができるようにしておき、いざ深刻なトラブルが生じた場合は「専門医」、さらにアフターケアは「かかりつけ医」といった使い分けが必要だとも述べています。事業継続や相続に関わる人は、明日は我が身と考えて、本書を手にとってみてはいかがでしょうか。

■書籍概要
新 事業承継・相続の教科書~オーナー経営者が節税よりも大切にしたいこ
著者:石渡 英敬
発売日:2023年4月19日
定価:1,980円(本体1,800円+税10%)
判型:四六・312ページ
https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798177212

全国の書店、ネット書店などでご購入いただけます
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・Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4798177210


■目次(抜粋)
第1章 相続の持ち戻し制度が後継者を苦しめる
・「贈与税が全額猶予される」と聞いて進めた対策が……
・遺留分が後継者の受難を引き起こす
第2章 「たわけ者」とは田んぼを分けた人のこと
・兄が8割の株式をもっているのに株主総会での決定が無効になる?
・早めの事業承継対策が裏目に出ることも
第3章 さまざまなスキームが事業承継の本質を見えにくくする
・株式の承継にあらゆる手を尽くしたはずが……
・株価の5億円と現金の5億円は同じではない
第4章 経営者の突然の死~緊急事業承継で起きる問題
・連帯保証債務を負わされた家族
・「経営者保証」はなぜなくならないのか?
第5章 医療法人の特殊性が承継を難しくする
・医師になれなかった兄、医師になった弟
・経営者の急死に備えた「相続訓練」をしていますか?
第6章 後継者に株を渡す前にすべき、大切なこととは?
・株式の贈与とともに、「除外合意」を検討していますか?
・会社を継がない妹と、いかにして円満に相続を乗り越えるか?
第7章 事業承継のキーワードは「言い聞かせ」と「思いやり」
・一度分散した株式に、どう対処するか?
・経営者ファミリーにとっての「キャディ」役でありたい
第8章 「もしも今、急な相続が起きたら」をオープンに語ろう
・急な相続、緊急事業承継への備え
・クーデターリスクに対して、正々堂々向き合う
第9章 医療法人の承継にまつわる大きな誤解とその対策
・どうしてもお伝えしたい、医療法人運営、医療法人承継の勘どころ
・事業を承継しない(できない)人への経済力の残し方


■著者プロフィール
石渡英敬(いしわたひでたか)
1974 年、神奈川県川崎市に生まれる。1998 年、東京大学教養学部基礎科学科卒業。大手広告代理店を経て、2005 年にプルデンシャル生命保険株式会社のライフプランナー(営業社員)に。2015 年、ライフプランナーの最高位「エグゼクティブ・ライフプランナー」に就任。
実家は祖父の代からスーパーマーケットを経営していたが、2015 年(法人設立55期目)に経営難を理由に、三代目オーナー経営者の兄から第三者へ株式譲渡。ライフプランナーとしてその実現に深く関わる。「2 代目3代目経営者のブレイン」「親族承継、永続経営のサポート」という立ち位置に特化した活動を続けている。
キャリアのある営業社員が専門性の高い最新知識などを学ぶ企業内大学「POJUniversity」の企画リーダー・講師を務める。自らの体験を共有する社内研究会には、毎回100 名を超える参加者を集めている。