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障がいのある子にお金の管理方法を教えてあげるには? コーヒー豆焙煎店を立ち上げた白羽玲子さんの取り組み 2016.08.24

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 障がいのある子を持つ親にとって、自分が亡くなったあとに残される子が生きていけるかどうかは最も重要な懸念です。特に、お金について理解するのが得意でない子にとって、使い方や管理は親が生きているうちにきちんと教えておいてあげたいもの。また、親自身が資産を残すための準備をする必要もあります。

 翔泳社では、7月19日(火)に『今日からできる!障がいのある子のお金トレーニング』を刊行しました。本書では多くの親が教えるのに困っている「お金の管理」や「将来への準備」について、福祉のプロと家計のプロが解説しています。

 今回、次男が発達障がいと診断されたことをきっかけに会社を辞め、コーヒー豆焙煎店「縁の木」を立ち上げられた白羽玲子さんに、その決断の理由やお金のトレーニング、ご自身の取り組みについてうかがいました。

白羽玲子さん
白羽玲子さん

自分の子どもがきっかけで起業、でも地元の人も受け入れたい

――白羽さんは翔泳社を退職されて「縁の木」を始められました。お子さんが自閉症と診断されたことがきっかけの一つだったそうですが、縁の木ではどういう仕事、活動をされているのでしょうか。

白羽:基本的には生のコーヒー豆を焙煎して販売することがメインです。店内に喫茶店のスペースも作れたんですが、それよりもやりたいことがあったので喫茶店営業の許可は取りませんでした。

 まずやりたかったことの一つは、地元や知り合いの就労移行支援施設、特例子会社から施設外の就労訓練ということで障がいのある人を受け入れて、コーヒー豆の焙煎をしてもらうことです。その次に、地元の子どもの受け入れです。この近所には働いている親が多いので、ちょっと預かっておいてほしいときに利用してもらっています。

 私のメリットとしては、将来うちの子がお世話になる人たちと早く出会えるかもしれないということがあります。また、いろんな境遇の人たちと付き合うことで、それぞれの人の得意不得意が分かり、障がいがあっても作業しやすいガイドの作り方などを実地で学ばせてもらっています。

 就労移行支援施設や特例子会社のメリットもあります。障がいのある人はいつも訓練している場所ではきちんと働けても、実際の就労によって環境が変わるとうまくできないことがとても多いんです。就労できても離職してしまう方もいらっしゃいます。縁の木ではそういう人たちが、初めて来る場所に時間どおりに来る、指示を聞いて働く、会話をする、定時で帰るという訓練を受けてもらうことができます。施設側が就労後の定着のためにお金を払ってでもやらせたいことを、縁の木を使ってもらうことで無料でできるわけですね。いまはお互いにお金のやり取りはなしで取り組んでいます。

 もともと私は障がいのある人たちに働いてほしいと考えていたので、焙煎機も熟慮しました。いま使っているものは1回に500グラムしか焙煎できないんです。ですが、500グラムずつで注文を取りたいわけではありません。仮に卸売で10キログラムの注文を取ったとしても、同じ設定、同じ豆、同じ分量で、同じ作業を繰り返すことで仕事を達成できるんです。小さい単位で繰り返すことは失敗のリスクを分散させることになりますし、訓練にもなります。ですから、仕事としては大きい単位で受注することを目標にしています。

――実際の作業はどうでしょうか。

白羽:私は最初にお世話をしている健常な人たちに、皆さんがどういうことが得意なのか尋ねます。動き回る作業が得意な人、じっと座って一つのことに集中するのが得意な人、それぞれいます。前者は多動性、後者は過集中と呼ばれますが、多動性の人には作業をいくつか用意しておいて、飽きたら別の作業を次々やってもらうようにしています。そして過集中の人には集中力が必要な作業、例えば悪い豆を取り除く作業をやってもらっていますね。

 最初は作業を分ければいいということも分かりませんでしたが、少しずつ作業のバリエーションを増やしていきました。焙煎に関わる作業では、生の豆から悪い豆を捨てる、分量を量る、焙煎する、焼けた豆から悪い豆を捨てる、計量してパッケージングする、といったことがあります。それ以外に袋を作る、袋にシールを貼る、発送のために袋を詰めるなど、実はたくさんあるんです。

 いまの目標は、皆さんが得意なことをそれぞれ分担して作業できるようにすることです。最終的には、企業や喫茶店からの注文が自然と入ってくるようになったら、皆さんができる作業を分担し、できるだけ高い水準の給与を出せるようにしたいですね。いまは店を安定させるのが先です(笑)。ただ、最悪失敗しても、年齢的にもう1回チャレンジできますから、独立のタイミングはよかったと思います。

――ご自身のお子さんだけでなく、地元の方も受け入れるという発想はなかなかできないような気がします。どんな理由があったのでしょうか。

白羽:うちの子だけのためにやっても、もしかしたら焙煎店で働く適性がないかもしれません。仮になかったとしても、うちが地元の2人を受け入れたとしたら、その分の雇用枠が地元で空くことになりますよね。次男はそこで働くことができるかもしれません。起業するうえでは、そこの割り切りは必要でした。うちの子に絶対にコーヒー豆屋をやってもらいたいと思っているわけでもないんです。

 ただ、意識的に連れてきて、慣らしてあげてはいますね。面白いのは、次男はいま黒い飲みものを見るとコーラではなくコーヒーと言うんですよ。やっぱり影響を受けているんです(笑)。

――お子さんはコーヒーを飲まれるんですか?

白羽:長男は小学5年生ですから飲みますね。次男はまだブラックでは飲めませんが、お兄ちゃんが飲んでいるのを見るとコーヒー牛乳を飲みたいと言い出すんです。作ってあげるとすごく満足そうに飲んでくれます。それを見たお兄ちゃんは、コーヒーに牛乳を入れるなんて邪道だ、と怒るんです(笑)。

後回しにしがちなお金のこと、それでも現実に向き合わないといけない

――本書『今日からできる!障がいのある子のお金トレーニング』はあまり教えてもらえないお金のことについて書かれていますが、読まれた感想はいかがですか?

白羽:「親が亡くなったあと」という言葉にはっきり触れることはとても勇気があり、大切なことだと思いました。その現実を考えるのは難しいですし、それを踏まえてお金のことを考えないといけないとなるとさらにハードルが高いでしょう。

 お金のことは、障がいのある子を持つ親にとって後回しにしている、手が回っていない、そして知識が最も乏しい部分です。障がいがあることが分かった3歳くらいの子を持つ私のような親を始め、子どもが30歳くらいになってもうすぐ自分が病院通いになり、面倒を看ることができなくなるかもしれない親まで、広く必要な知識だなというのが実感です。

 お金のことは後回しにしがちなんです。その理由の一つは、現実を見たくない、生々しすぎて怖いという気持ちからです。もう一つは、お金を使うことを教えて誤学習してしまうことへの恐れです。

 例えば、健常者なら「少しの段差からなら飛び降りても大丈夫だけど、滑り台からは飛び降りてはいけない」と当たり前に理解できます。しかし、知的障がいのある子だと、「段差から飛び降りても大丈夫」と理解すると「高いところから飛び降りても大丈夫」と誤学習し、極端に言えばベランダからでも飛び降りてしまうような場合もあります。そうした誤学習がお金に関する事柄で起きたら、と親は考えてしまい、お金を使わせてみること、持たせることが怖くなるんです。

 うちの子はまだ小学2年生なので、いつでも誰かしらついてくれていて、その人に私がお金を渡せば管理して使ってくれるので、自分でお金を使う必要がありません。将来自分で使えるようになるかはこれからの発達次第ですが、いずれにせよ将来考えないといけないことだと痛感しています。

現金を残すよりも働く場所と働くための知識を残してあげたい

――白羽さんご自身はお金のことに関してどのように考えられていますか?

白羽:息子が2人ともが健常だったなら、翔泳社で勤め上げていたと思います。そうすれば相応の蓄えが残るからです。それを息子2人に折半で分けたあとは、彼らがどう使おうが構わないと思っていました。

 ところが、次男が自閉症と診断されました。どうすればいいのかと思って知的障がいのある人たちの財産管理について調べてみると、やはり後見人と第三者の弁護士がその子にとって必要だと判断し、合意すればお金を使えてしまうんですね。つまり、嫌な話ですが、周りのみんなで使わせようとすればできてしまうんです。そうなってしまうのだったら、現金で残すよりも働く場所と働くための知識を残してあげたほうがいいのではないかという判断をしました。それで縁の木を始めたんです。

――白羽さんは会社を退職されて起業されましたが、お子さんの将来のためにそこまで思いきって行動できる方は多くないかもしれません。なぜ白羽さんには決断できたのでしょうか。

白羽:ある程度蓄えがあったんです。祖父が一度会社を倒産させた経験もあってお金にうるさい人で、小学2年生の頃にはすでに、お年玉の半分は貯金しなさいと教えられていました。祖父と一緒に富士銀行(現みずほ銀行)の口座も作りました。いまでもそれが私のメインバンクになっています。

 こうした祖父の影響で、お金を貯めなければいけないという認識があり、それなりに貯金してきました。例えば給料が出た翌日に貯金のために天引きされるように組んでいたんです。アルバイトを始めた大学1年生のときから、最初は1,000円、実入りがよくなったらだんだん金額を上げました。就職後も、給料から天引きする財形貯蓄ができたので、積極的に利用していました。

 そうして結婚し子どもが2人生まれ、次男が3歳のときに障がいがあると分かったんです。その2週間後くらいに母が亡くなりました。父も早くに亡くなっていたため、代替わりの遺産相続をすることになったんですね。夫婦間の相続は控除額が大きいんですが、代替わりの相続は厄介で、けっこうな相続税を支払いました。

 その後、家が残り、自分の蓄えも多少は残りました。ですが、その頃保険を見直し、自分の死亡保険金は息子たちがドルでも円でも選んで受け取れるものに一本化し、さらにそのお金はなかったことにしました。本書にも「浮いたお金はもともとなかったお金」という考え方が書かれていますよね。そのうえで、手元にあるお金で何をしようかと考えたんです。

 ですから、蓄えがなければ起業の決断はできなかったかもしれません。しかも、その蓄えを自分の両親に使うのではなく、すべて子どもに使っていい状況になりました。親が長生きしてくれるのは嬉しいことですが、反面、介護が必要になればお金がかかりますから。そんな状況になり、「じゃあやってみよう」と決心がついたわけです。

 起業すると子どもといる時間は専業主婦になるより減ってしまいますが、私が亡くなったあとに次男の面倒を看てくれるのはお兄ちゃんか他人です。そう考えると、「今日はこの人が面倒を看てくれるんだ」と他人を受け入れられて、言われた作業をきちんとできるようになってもらうことも大事なんです。それをいま実践していると、納得することにしています。

補助金があるという前提が覆るかもしれない将来に備える

――本書では子どもへのトレーニングだけでなく、親側のお金の不安を解消する方法も紹介されていますよね。

白羽:将来、親が亡くなったあと子どもがいくら必要とするのか、これがとても大事だと思います。私も分かっていなかったことがいくつもあって、勉強になりました。例えば「貯蓄200万円でどれだけ生活できるのか心配」という事例は、うちにかなり近いと思います。障害基礎年金78.8万円、年間工賃8.2万円で収入が87万円。それに対してグループホームの入居代など支出が97万円ですね。

 このシチュエーションで、あといくらあれば路頭に迷わないか。本書では一つの解決策として、生命保険を受け取れば大丈夫だとしています。私はそのとおりに生命保険を組んでいましたが、しっかりした見通しがあったわけではなかったので、これを読んで「やっぱり大丈夫なんだ」と安心しました。親もなかなか勉強できないことです。

 本書では言及されていませんが、実は読んでいて懸念に思ったことがあります。いま、日本が少子化になっている中で、発達障がいと診断される人が増えていますよね。これから小学校も特別支援学級とは別に特別支援教室という名で、配慮が必要な児童の対応を切り分けて行っていきます。ただでさえ子どもが減っているのに、それに輪をかけるように障がい者の比率が高まっていくと働き手がどんどんいなくなってしまいます。

 そうすると、社会福祉のための予算が必要になりますが、現実的にはそこまで増やせないでしょう。逆に、できるだけ働いてくれという方向になり、補助がなくなる可能性すらあります。グループホームの利用も数万円の補助が出るという前提でキャッシュフローを作っていますが、それが出なくなるのではという疑いは常に持っています。

 だからこそ、補助金や助成金を当てにせず、それがなくなっても生きていける収入をどうやって稼ぐかを考える必要があります。そのために、商売が成立している会社を作ることには意義があると思っています。本書を読んで安心はしましたが、数十年後にも同じような前提でお金のことを考えられるかは分かりません。いまある前提が覆る可能性、危惧を意識して、準備しておきたいですね。

 こうした話を障害のある子のいる親御さんとしても、けっこう流されてしまいます。「まあまあそれは置いといて……」と。不都合なことはあまり考えたくないのかもしれませんが、子どものことを想うのなら避けて通れません。

 私は子どもの保険も発達障がい児用のものに加入し直しました。通常の子ども用の保険だと、こちら側の不注意が多いと、たとえ入院しても保険金が支払われないものがあります。怪我をしても滅多なことではお金がかからない、という前提で特約を外しました。

キャッシュレスなど未来の社会に対応できる教育が必要

――白羽さんはお子さんにお金の管理、使い方をどう教えていらっしゃるのですか?

白羽:うちの子はもう少し大きくならないと難しいかなと思っています。お金の使い方を理解できるくらい発達するかまだ分からない部分もあります。ただ、放課後デイサービスや特別支援学校でも、買い物をする実習をしてもらっています。お金を払っていないものを食べてはいけないといったことを教えないといけません。買いものに行く、カゴに入れる、お金を払う、その儀式が終わったら家で食べていい、ということを、繰り返し、家庭だけでなく、さまざまなアプローチで教えていきたいんです。私も、必ず買いものには連れていっています。次男は道を覚えるのが得意なので、大好きなアイスクリームを選び、買い、運んで家で食べることはできるようになりました。

 もう一つ懸念があるのは、キャッシュレスの社会になっていくだろうということです。カードが当たり前になることは、例えば外国人が日本で簡単に買いものできるようになるなどメリットもたくさんあります。ただ、いまはお金トレーニングといっても、障がいのある人には現金の管理を教えています。ですから、これから必要な購買行動がどんなものなのかを考えないといけません。

 スーパーマーケットのレジも、カードが使えるだけでなく、セルフレジがだんだん増えていますよね。なので、自分で商品のバーコードを読み取って、キャッシュカードをどの向きで通すか理解してもらう必要がありますし、むしろ買いすぎないことをより強調して教えてあげるほうがいいのかもしれません。公共料金が引き落としになり、障害年金も窓口ではなく振り込みになるなど、現金に触れる機会はいままで以上に減っていくのではと思っています。

 いま一生懸命現金の使い方を教えてあげても、将来はまったく使わないかもしれませんよね。現時点ではクレジットカードやキャッシュカードは持てないことが多いとはいえ、カードの管理、お金の残高が見えない中で必要なものだけを買う訓練も重要かなと思います。

 あと、本書では切符を買う訓練をやってみようと書いてありますが、東京都では公共交通機関の無料定期券を発行してもらえます。それがあるので、切符を買う機会も必要もまったくないんですよ。やはりその人自身の状況に合わせた訓練が必要です。

 これからの発展する社会インフラをどれだけ想定できるか、新しい技術に戸惑わずに対応できるかが、障がいのある人もお世話をする人も大切ですね。

渡部拓也(マーケティング広報課)

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