子ども食堂が「地域での子育て」を復活させる――静岡市子ども食堂ネットワークの飯沼直樹さんインタビュー|翔泳社の本

子ども食堂が「地域での子育て」を復活させる――静岡市子ども食堂ネットワークの飯沼直樹さんインタビュー

2018/01/23 07:00

 地域の人間関係が希薄になり、核家族化が進む現代では、悩みを周りに相談できずに不安を抱えたまま子育てに奮闘している保護者も少なくありません。そのような中で、現在ではなかなか見られなくなった「地域での子育て」を実現するカギが、子どもの貧困支援で注目を集める「子ども食堂」にあるといいます。静岡市内で6か所の子ども食堂の立ち上げ・運営サポートを行い『地域で愛される子ども食堂 つくり方・続け方』を執筆した飯沼直樹さんに、子育て支援の場としての子ども食堂の可能性についてうかがいました。

「孤食」の子どもにも、みんなでご飯を食べる楽しさを届けたい

――まず始めに、飯沼さんが子ども食堂の活動に注目したきっかけを教えてください。

飯沼:子ども食堂に興味を持ったのは、私自身、両親が共働きで一人でご飯を食べることが多い、いわゆる「孤食」の家庭で育ったことが影響しているのだと思います。

 今は昔よりも共働き家庭やシングルマザー・シングルファザーが増えています。ですから、子ども食堂を通じて、みんなでわいわいご飯を食べる場を提供できれば、普段は寂しくご飯を食べている子どもたちや、一生懸命子育てを頑張っている保護者の方々の助けになると思ってこの活動を始めました。

子ども食堂1

地域の多様な人々との関わりが、子どもたちを成長させる

――実際に活動をしてみて、今の子どもたちについて何か感じられたことはありますでしょうか?

飯沼:あくまで私の体感ですが、今の子どもたちは昔より「優しい子」が多いと思います。しかし、その裏返しとして自分の欲求をストレートに出す「子どもらしさ」が抑え込まれているとも感じます。

 私が子どもの頃は、子どもたちはとにかく元気で、他人にぶつかっていくようなコミュニケーションが多かったと思います。その中で当然ケンカもあり、傷ついたり傷つけたりすることもありました。しかし、その過程で心が成長していき、人に優しくすることの大切さも学んだように思います。

 もちろん、ケンカがいいことだ、というわけではないのですが、今は優しさを学ぶことが先にきていて、ストレートに他人と関わることにどこかブレーキをかけているように見えます。自分が傷つくことが嫌で、他者と、それもさまざまな年齢・立場の人たちとの交流が苦手だったり、興味がなかったりする子が多いと感じます。

――そうした子どもたちにとって、子ども食堂はどのような場所になっているのでしょうか?

飯沼:子ども食堂の特徴は、専門家ではなく「地域の普通の方々」が自発的に活動する子育て支援の場だということです。昔は近くに祖父母がいて、遊んでくれる近所のお姉さんや、叱ってくれるおじさんなどがいて、多様な人との関わりの中で子どもが育っていました。

 それに近い環境が子ども食堂にはあります。子ども食堂のスタッフとして参加してくれている近所の大人たちと接することで、現代の子どもが苦手な他者との交流の仕方を学ぶ場になっていると思います。

 スタッフの年齢や職業が幅広いので、子どもたちはさまざまな価値観を持った人と出会います。子ども食堂は挨拶や食事の作法などに限らず、家庭と学校だけでは伝えきれない社会のルールを知る機会も与えてくれます。そういう意味で、昔にあった「地域での子育て」がここで実現できているのかもしれませんね。

 また、私の子ども時代のような孤食の子や、学校で孤立しがちな子など、学校や家庭であまり居場所がないと感じている子にとっては、子ども食堂が安心できる「居場所」になっているようです。実際に、私たちの子ども食堂にも、学校ではちょっと孤立してしまっているけど、スタッフと仲がよくなって、毎回欠かさずに来てくれる子どもたちもいます。

子ども食堂2

子どもだけではなく、保護者にも地域の支えが必要

――現代の保護者や子育て環境について、何か感じられたことはありますでしょうか?

飯沼:昔の子育て環境と比べると、現代のほうがさまざまな選択肢が増えて自由度が広がりました。経済的な状況や子育てに対する価値観にもばらつきが広がっています。その分、正解を探すのに悩んだり疲れたりしている保護者が多いように感じます。

 誰かに気軽に相談できればよいのでしょうが、人間関係が以前より希薄になっていて、子どもが同じクラスでなければ親同士の交流もなかなかないのではないでしょうか。相談できる人が周りにいないという人が増えているように感じます。そんな状況の中で、ほかの家庭と比べてしまって不安になったり劣等感を抱えたりする方もいます。

 子ども食堂にいらっしゃる保護者の中にも、スタッフを信頼してくれるようになるにつれて「実は……」と、ふとした瞬間に子育ての悩みを話してくれる方がいらっしゃいます。子ども食堂に来て同じ学校のお母さんとつながりができたと、喜んで話してくれる保護者もいらっしゃいます。

 子ども食堂は、家族や子どものクラスのママ友との関係よりも緩い関係性の共同体ですから、親しい人には言いにくい悩みを相談しやすい土壌があるのだと思います。また、子育て経験のある地域のおばちゃん、おじちゃんもスタッフとしてたくさん参加しているので、そうした保護者の言葉に共感して耳を傾けつつ、必要があればアドバイスをすることもできます。子どもたちや保護者の方々を地域のみんなでそっと支える、子ども食堂はそんな存在になってきていると感じます。

子ども食堂3

善意だけでは続かない。子ども食堂を運営するうえでの課題とは?

――地域全体で子育てを支えていくうえで、子ども食堂が重要な存在になっているということがよく分かりました。ただ、せっかく子ども食堂を立ち上げても、運営がうまくいかずに活動が継続できないことも多いと聞きます。なぜそのようなことが起きているのでしょうか?

飯沼:まずは金銭的な問題が大きいですね。活動が認知され評価されてくれば、地元企業からの協賛金や行政からの助成金をいただく機会が巡ってくることもありますが、それまでの期間を乗り切れずに断念されてしまうようです。初めから継続することを前提に年単位で予算を立て、必要な予算をどうやって調達するかまでを考えておけば、このような問題はある程度防ぐことができると思います。

 次に、開催者側の気持ちの問題ですね。最初に掲げていた理想と現実とのギャップに疲れてしまうのです。周囲の協力が得られずに思い描いていた活動ができないこともあります。また、狙い通りの活動ができたとしても、子どもたちや周りの大人たちから思ったような評価が得られないこともあります。そうしたときにモチベーションが下がって続けられなくなるのです。

 それを防ぐには、地域のニーズを把握して独りよがりの活動になっていないかを定期的に振り返ること、こちらから積極的に出向いて地域のキーパーソンに子ども食堂の思いや方針を理解してもらうことが大切です。

「子ども食堂=貧困支援」という認識の人にこそ読んでほしい

――飯沼さんの著書『地域で愛される子ども食堂 つくり方・続け方』では、こうした問題への解決策が具体的に紹介されていますが、出版をしようと思われた理由をうかがわせてください。

飯沼:自分で活動してみて、また、全国で頑張っていらっしゃる子ども食堂さんの活動を見ても、子ども食堂という居場所を必要としている子どもたちや保護者はまだまだたくさんいると感じています。

 私は子ども食堂の数がもっと増えて、地域社会の中で当たり前の存在になってほしいと願っています。また、せっかく子ども食堂に巡り合えたとしても、運営がうまくいかなければ、その人から大切な居場所を奪ってしまうことになります。それをできるだけ防ぎたいと思っています。

 子ども食堂の活動が認知されるようになってまだ日が浅く、私たちの活動もまだ試行錯誤の連続ですが、今までの活動の中で築き上げてきたノウハウを公開することで、一つでも多くの子ども食堂が生まれ、そして、地域に根付いていく手助けができればと思い、出版という方法をとりました。

 また、一般の方々にとっては、「子ども食堂」はまだ話題先行の感が強く、「子ども食堂=貧困支援」というイメージしかない人もいらっしゃいます。貧困家庭だと周りから思われるのではないかと心配して参加を躊躇する保護者もいます。ですから、子ども食堂の運営に携わっていない方にもこの本を読んでいただくことで理解や関心が広がり、近くの子ども食堂を応援したり参加したりするきっかけになればとても嬉しく思います。

――ありがとうございました。

 子ども食堂は善意だけでは続きません。活動のコンセプトの立て方から、適切な資金計画、安全・衛生管理、参加者募集の方法まで、安全で楽しい子ども食堂を運営するために必要なノウハウをわかりやすく紹介しています。子ども食堂のことを知りたい・勉強したいという方にもおすすめの1冊です。

地域で愛される子ども食堂 つくり方・続け方
地域で愛される子ども食堂 つくり方・続け方

著者:飯沼直樹
発売日:2018年1月31日(水)
価格:1,728円(税込)

本書の特徴

・子ども食堂の立ち上げ方と運営の仕方をフローチャートで紹介。初めてでも、いつ何をすべきかが一目でわかる!
・「立ち上げ方」では、つまづく人の多いお金の集め方・使い方から、効果的なチラシのつくり方まで手取り足取り解説。地域に根付くために必要なキーパーソンとの関係構築のコツについても紹介!
・「運営の仕方・活動の広げ方」では、よく出合うトラブル対処法など活動の質を上げるための方法、学習支援/地域活性化/三世代交流など新たな活動を広げるコツを紹介!
・子ども食堂を通して人々や地域がどう変わるのか?子どもやスタッフのエピソードを交えて紹介。