ビーコン、画像認識、IoT重量計、ロボティクス。在庫管理システムに関するテクノロジー動向を解説|翔泳社の本

ビーコン、画像認識、IoT重量計、ロボティクス。在庫管理システムに関するテクノロジー動向を解説

2023/02/13 07:00

 在庫管理システムに携わるエンジニアのための教科書『エンジニアが学ぶ在庫管理システムの「知識」と「技術」』(株式会社GeNEE DX/ITソリューション事業部、翔泳社)から、在庫に関する最新のテクノロジー動向を紹介します。具体的な事例としてビーコン、画像認識、IoT重量計、ロボティクスが取り上げられており、現状やメリットが解説されています。

 本記事は『エンジニアが学ぶ在庫管理システムの「知識」と「技術」』の「第11章 在庫に関連する最新のテクノロジー動向」を抜粋したものです。掲載にあたって一部を編集しています。

事例1 ビーコンを駆使する

システムとビーコン技術を組み合わせた在庫管理事例

 昨今、通信技術の発展により、さまざまなデバイスとシステムが連動できるようになりました。ビーコンもその1つです。このビーコンは、Bluetoothの信号を利用して発信された端末や通信方法のことを指しており、信号を受発信することによって、ヒトやモノの位置情報を特定することが可能な技術です。

 また、通常のBluetoothよりもさらに省電力にした通信方式を使ったBLEビーコンもあります。これは使用方法によってコイン電池で何年も電池交換することなく利用できるものです。システムとビーコンの活用事例を挙げると、在庫管理のほか、所在管理・勤怠管理によく使われます。ビーコン経由で社員やスタッフの位置情報を特定し、所在の把握、勤怠状況の確認を行うのです。

 在庫管理でも同様です。近年、特に倉庫事業者を中心として、ビーコンと在庫管理システムの普及が進んでいます。具体的な使われ方としては、ビーコンを在庫に取り付け、倉庫や管理センター内に設置されたカメラやセンサーが在庫数、在庫の大きさ、入出庫の状況を機械的かつ自動的に検知することで、在庫棚卸業務や発注業務の効率化、在庫状況の可視化、在庫切れの防止などに貢献しています。種類にもよりますが、モノによってはアラート機能を搭載したビーコンも普及しているので、これらの機能をうまく活用することで、倉庫から販売拠点への誤出荷や盗難防止にも役立ちます。

 一例にはなりますが、具体的なビーコンの運用方法は次の図のような流れになります。

ビーコンの運用方法
ビーコンの運用方法

 ビーコンの性能は少しずつ向上しているものの、まだいくつかの課題を抱えています。たとえば、倉庫内に設置したビーコンの位置によっては正しく位置情報を取得できないケースや、倉庫や管理センターの立地によっては基地局からの電波受信の関係から良好な位置精度が得られないといったケースが起きています。ビーコンによる在庫管理は実際に試してみないとわからないことが多いので、開発会社とやり取りする中で最適なやり方を模索するしかありません。

事例2 画像認識技術を用いる

急速に発展する画像認識技術、在庫管理業務への応用

 新型コロナウイルス感染症が蔓延する中、倉庫や管理センター内での省人化や遠隔管理に注力する企業が増えています。近年では、AI搭載型カメラのほか、スマートフォン端末内のアプリケーションを使用し、これまで人間の目で行っていた在庫管理業務を機械的に行う仕組みが次々に登場しています。AI搭載型カメラやアプリケーションが在庫の動きを感知し、入出庫状況や現在の手元在庫数を自動的に管理してくれるのです。

 これらの技術を導入することにより、これまで数時間かかっていた在庫管理業務がわずか数分で完結するといった事例まで登場しています。また、AI搭載型カメラやアプリケーション内の画像認識技術の精度も数年前と比べて格段に向上しており、現在ではアルバイトやパートタイムのスタッフの目視作業よりも正確な数値把握が可能となっています。

 以下は一例ではありますが、画像認識技術を活用した在庫管理業務の運用方法をまとめたものです。

  1. 事前にAI搭載カメラ、IoTアプリケーションに在庫情報(形状や見た目、大きさなど)、在庫保管場所情報などを取り込む
  2. 1で取り込んだ在庫情報と在庫保管場所情報に従い、在庫管理担当のスタッフは陳列・保管を行う
  3. 在庫保管場所から在庫が運搬されると、AIカメラがその動きを感知し、自動的にその個数が計測される
    ※次の図のようなシステム構成を取ることで、在庫管理担当による遠隔管理も可能となる
  4. 運搬された個数が倉庫センターから新たに補充される
画像認識技術の具体的なシステム構成イメージ
画像認識技術の具体的なシステム構成イメージ

 画像認識技術が発展し、現代では在庫1つひとつの把握ではなく、陳列棚の外観や空間を学習させ、機械的に品切れ状況を把握することも可能になってきています。これらは個々の在庫の学習を不要とし、AIカメラの画角学習のみで運用を開始できるため、速度感を求められる現代社会によりフィットした方法ともいえます。

進化する画像認識技術の事例
進化する画像認識技術の事例

事例3 IoT重量計を活用する

IoT重量計とは?

 在庫管理業務の中でトラブルになるのが、人的作業によるミスオペレーション、リアルタイムでの情報更新の難しさ、担当者の属人化などです。とりわけ、零細企業や中小企業などでは今でも手書きの帳票類管理やExcel管理が主流であり、実在庫管理業務の中でさまざまな問題や課題をはらんでいます。

 現代社会においては、IoT重量計をうまく活用することで、在庫管理に関するトラブル解決が可能になっています。IoT重量計とは、インターネットに接続された状態で使用する計量機を指します。Amazon Web ServicesやGoogle Cloud Platformと呼ばれるクラウドサービス上で定期的に在庫の重量を計測することで在庫の数や量を把握し、在庫管理システム上にデータを取り込んで閲覧します。事前に在庫管理対象を登録することでその対象の重量と個数をリンクさせ、計量の都度正確な数値管理が可能となります。IoT重量計導入後は在庫を目視確認する必要がなくなるので、人的作業によるミスオペレーションの防止にもつながり、在庫管理業務にかかっていた稼働を大幅に削減できます。

 本書執筆時では、前節で紹介した画像認識技術を用いた活用事例は少なく、まだ実証段階中のものが多いですが、IoT重量計の導入事例は日本国内でも増えてきています。その理由としては、精度の差が一番に考えられるでしょう。前述の通り、画像認識技術もかなりの速度感で進化しているのですが、やはり実際に重さを計量するほうが精度は高いです。そのため、直近で在庫管理業務の効率化を検討している企業にお薦めしたいのはこのIoT重量計です。

IoT重量計で行えること

 IoT重量計で行えることは、大きく次の3つになります。

  1. 在庫を機械的に正確に計量する
  2. 在庫管理システムと連動させ、在庫数を可視化する
  3. 発注管理システムと連動させ、発注を自動化する

 それぞれ見ていきましょう。

 まずは1ですが、IoT重量計の最も大きな役割は正確な計量を機械的に行うことになります。手作業で在庫を勘定する場合、1個1個数える必要があり、また量を量る必要がある場合、秤に載せる必要があります。街中の宅配業者に荷物を持ち込むと、スタッフの方が荷物を受け取った後、秤に載せて重量を量ると思います。手管理の場合、1個1個重さを量らなければならず、数が増えれば増えるほど手作業が必要になり、計測に膨大な時間を要することになります。IoT重量計では、在庫の数や量を機械的に計量し、一瞬でその作業を完了させます。在庫の計測に何十人もスタッフをあてている企業なら、その在庫管理業務を2分の1から3分の1に削減できるでしょう。

 続いて2です。IoT重量計を在庫管理システムと連動させることで、在庫数の可視化を実現できます。IoT重量計はインターネット上に接続されているので、計測した在庫データを自社の在庫管理システムに流し込むことができます(ただし、市販のパッケージソフトウェアやExcelやAccessで在庫管理を行っている場合、IoT重量計から取得した在庫データを連動させることができないケースもあるので注意が必要です)。

 ここでは自社システムとIoT重量計が連動できる前提で話を前に進めます。IoT重量計を使用することで、計量時点にどの程度在庫量が存在しているのか即時に把握することができます。また、計量した在庫データを自社工場の生産計画に活用することで、品切れや過剰在庫といったリスクの排除につながります。事前に閾値を設定し、手元在庫量が一定基準を下回る場合に各在庫管理担当のスタッフに対してアラート配信を流せる仕組みも構築できます。このような機能をうまく導入・活用することで、データチェックの抜け漏れが発生したときでも、機械的に配信されるアラートによって在庫状況に気付くことができるので、品切れが起きる前に何かしらの対処が可能となります。

 最後に3です。発注管理システムとIoT重量計(在庫管理システム)を適切に連動させることで、在庫量が閾値を下回った場合に自動で発注をかけることが可能となります。定期的に発注が必要な商品があれば、自動発注機能によって日常の発注事務作業が大幅に削減できるはずです。

IoT重量計の具体的な導入メリット

 IoT重量計を導入する具体的なメリットとしては、大きく次の4つになります。

  1. 在庫確認作業・入力作業をゼロにできる可能性がある
  2. 日常的に行われる棚卸作業が不要になる
  3. 在庫管理の精度が向上する
  4. ネジなど数えにくいものでも管理できる

 まず1についてです。DXやIT化が進んでいない現場ほど、日常的な確認業務が残されているものです。IoT重量計の導入を行い仕組み化が整うと、在庫のある現場にわざわざ足を運ぶ必要がなくなります。また、在庫の入出庫もすべてIoT重量計を経由して管理できる場合があるので、システムへの入力作業や帳票類の出力作業も不要になり、在庫管理の業務効率化が加速するはずです。

 1を「可能性がある」と濁す表現にしたのは、企業によって在庫管理に関する方針や、将来的にIoT重量計をどのように活用するかが異なるからです。一例を挙げると、重厚長大産業、とりわけ建設業には今でも紙文化が根強く残っており、電子化が今ひとつ進んでいません。そのため、資材などを管理する際にIoT重量計を導入したとしても、管理方針が紙媒体の場合、帳票類の出力や管理は1つの業務として残る可能性があります。したがって、システムエンジニアの方はお客様の要望をしっかりと聞いた上で、システム化の範囲を決定しなければなりません。

 IoT重量計導入の効果が最も大きいと考えられるのが2です。小売業や流通業、倉庫管理業で在庫管理を行う担当者は日常的に棚卸作業に取り組んでいます。目視確認を行う中で、「個数が合わない」「量がおかしい」ときに手を止めて何度も数え直しているのではないでしょうか。IoT重量計を正しく使用することで、数え間違い、数え忘れ、重複カウントを防止できます。

 続いて3です。人的作業による在庫管理はどうしてもミスオペレーションが起こり得ます。少し前に注目されていたRFIDでも電波を使用していることから在庫を読み取れないケースが発生します。その点においては、IoT重量計は安心で、正確に在庫数や在庫量を自動計測し続けます。在庫の数や種類が豊富な企業には、IoT重量計の導入がお勧めです。

 最後は4です。たとえば、次のような在庫はIoT重量計と相性が良いといえるでしょう。

IoT重量計と相性の良い在庫
IoT重量計と相性の良い在庫

 特に有効なのは、ネジや部品といった1つひとつ個数を数えるのが大変なもの、粉体や液体のように人の目では数えにくいものです。もし、このような商品を取り扱う会社なら、一度IoT重量計と在庫管理システムとの連動を検討してみると良いと思います。

事例4 ロボティクス技術を活用する

ロボティクスとは?

 ロボティクスとは日本語で「ロボット工学」を意味し、ロボットの設計・制作・制御全般を指す言葉として使われます。昨今、日本を含む先進国では、労働人口の減少や人件費の高騰といった人の問題に悩まされています。人的作業を代替するために、在庫管理業務が必須の小売業界、流通業界、慢性的に人手が不足する医療・介護業界などではこのロボティクスの研究開発や投資に力を入れており、導入事例は年々増加傾向にあります。

 本節では、前節で触れた画像認識技術やIoT重量計とロボティクスを明確に区別するために、倉庫業界を中心として昨今大きな注目を集めるAMR(Autonomous Mobile Robot:自律型走行ロボット)に焦点を当てて紹介します。AMRとは、2次元バーコード認識やレーザー技術などにより周囲の環境を把握し、目的の位置まで自律走行を行うとともに、在庫などの運搬を行う次世代型ロボットを意味します。

目的の位置まで運搬するAMRのイメージ

目的の位置まで運搬するAMRのイメージ
出典:PR TIMES「NVIDIA、Isaac ROSの最新リリースを発表、

自律走行搬送ロボット(AMR)用のオープンソース フリート管理ツールを実装

AMRの導入メリット

 AMRの導入メリットは大きく次の3つになります。

  1. 在庫を機械的に運搬することで作業の効率化や省人化を図る
  2. 機械的処理により、ヒューマンエラーを減らす
  3. 危険を伴う作業の排除および安全の確保

 まず1について触れたいと思います。AMRは指定したルートに基づき、在庫などの運搬を行います。従来の作業員による倉庫業務では、作業員が在庫のある棚に移動し、対象となる在庫を探し、発送エリアなどの特定の位置まで運搬する、という流れが必要でした。AMRを活用すると、上記の移動と運搬作業はすべて機械的に代替することが可能です。また在庫を探す作業に関しても、最近ではセンサー技術が発達し、ロボットが的確に峻別できるようになりました。人的作業を機械的作業に置き換えることで、作業の効率化や省人化を達成できます。

 2はヒューマンエラーの極小化を意味します。残念ながら作業員とAMRの作業の正確性を比べると、AMRに軍配が上がります。作業員のヒューマンエラーを防ぐために、複数回のチェック体制を敷く企業も多いですが、それでもAMRに作業内容を学習させたほうが高い精度で作業をこなしてくれるでしょう。AMRを含むロボットは決められた作業を間違いなく機械的・自動的に実行するので、ほぼミスが発生しません。もし現行の在庫管理業務の中でヒューマンエラーが多発している作業に置換できれば、AMRの効果は非常に大きなものになるはずです。

 最後に3です。倉庫会社や物流会社で働く作業員は、在庫運搬や在庫整理の際に、転倒被害に遭う可能性がゼロではありません。大型の在庫転倒により、作業員が死亡したというニュースもしばしば発生しています。人の命は代替できません。すべての運搬作業、整理作業をAMRに任せるにはいくつかの段階を踏む必要がありますが、労働災害を招く可能性のある一部の危険な作業、一部の作業エリアであれば比較的導入がしやすいものです。事故や事件は起きてからでは遅いです。危険を伴うような在庫管理業務がある場合、一度AMRの導入を検討してみてください。

エンジニアが学ぶ在庫管理システムの「知識」と「技術」

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エンジニアが学ぶ在庫管理システムの「知識」と「技術」

著者:株式会社GeNEE DX/ITソリューション事業部
発売日:2023年2月6日(月)
定価:2,860円(本体2,600円+税10%)

本書のポイント

●在庫管理のシステム導入のやり方がわかる
●在庫管理業務の機能がわかる
●在庫管理システムと他のシステムとの連携法がわかる
●在庫管理の現在と直面するビジネスの変化、対応方法がわかる