実際に事業を成長させているチームに共通する「マーケティング思考」とは? 浸透させるべき3つの共通言語|翔泳社の本

実際に事業を成長させているチームに共通する「マーケティング思考」とは? 浸透させるべき3つの共通言語

2023/02/13 07:00

 マーケティングで事業が成長したという他社の事例を目にするたび、なぜ自社ではうまくいかないのかと悩み、マーケティングに投資しても無駄だと期待外れに感じてしまう。そんな状況を打破するにはどうすればいいのでしょうか。インサイトフォースの取締役でグロースXの取締役COOも務める山口義宏さんは、実際に事業を成長させている企業ではチームに「マーケティング思考」が浸透していると指摘します。同名の著書『マーケティング思考』(翔泳社)では、マーケティング思考を構成する3つの共通言語が取り上げられています。今回は、マーケティングで事業成長を目指す企業にOSとして取り入れたいその共通言語を解説します。

 本記事は『マーケティング思考 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること』の「第3章 マーケティング思考を構成する3つの共通言語」を抜粋したものです。掲載にあたって一部を編集しています。

3つの共通言語をそろえる意味

チーム内の共通言語にすると強力になる

 マーケティング思考は、個人としても身につけるべきものですが、チーム内の共通言語になってこそ大きな成果を生み出します。その際、チームに浸透させるべき共通言語は、次の3つの要素に分解できます(図1)。

図1 マーケティング思考を構成する3つの共通言語

共通言語1:誰に? 何を? どのように?

 「誰に?」の顧客理解、「何を?」の顧客価値、「どのように?」の4P施策の入り口概要の知識・スキルを共有化することで、ミクロの施策の判断基準がそろいます。

共通言語2:用語・指標の定義と相場観

 CPA、LTV、リピート顧客、ロイヤル顧客など、専門用語と指標を組織で定義し、事実の把握・理解、目標とする数字を見積もれる相場観を共有化することで、現状の事実と課題の認識がそろいます。

共通言語3:事業フェーズ別の考え方

 事業フェーズごとに異なる重点的な取り組みとよくある課題、よくある落とし穴などの型を共有化することで、俯瞰での重点事項と落とし穴の認識がそろいます。

共通言語が浸透するとチーム力が高まる

 この3つの共通言語が浸透したチームは、非常に短い時間で意思の疎通と連携がしやすくなり、施策同士のスムーズな連携を促すだけでなく、チームの他のメンバーが担当する施策への健全な越境のフィードバックも実現します。

 さらには、他のメンバーが「どのようなことに取り組み、それがどの程度難しいものか」を想像できるようになるため、同僚の仕事をポジティブな視線で見守る空気が醸成されます。

 これは結果的にチームの心理的安全性を大きく高め、チーム内での前向きなチャレンジも増え、その結果として成果も出やすくなるというスパイラルが起こります。

 3つの共通言語の浸透は、マーケティングのチームビルディングを目的にするわけではないのですが、共通言語が浸透すると、結果的に非常に良いチーム文化が形成される副産物があることはぜひ覚えておいてください。

 マーケティングの会話のやりとりは難解な横文字や定義が曖昧な指標も多く、とにかく空中戦になりやすいものです。意思の疎通が図りにくいことで、成果が出ないだけでなく、メンバーのストレスレベルが高まりやすい仕事でもあります。

 そこで、この共通言語の浸透が、それらの組織課題も軽減します。食事や飲み会などの会話で仲良くなることも、一定の意味がありますが、それはあくまで共通言語を浸透させた状態に上乗せすべきものです。

 業務連携を円滑にすることこそ、チームビルディングの土台となり、成果向上だけでなくストレス軽減や労働時間の適正化にも貢献し、離職防止にもつながります

共通言語1:誰に? 何を? どのように?

新規顧客と継続顧客を考える

 共通言語1はすでに解説したマーケティングのOS部分(「誰に?」の顧客理解、「何を?」の顧客価値、「どのように?」の4P施策の入り口概要)までの知識と、それらを整理・企画し、業務推進するための知識・スキルです。

 それらに加え、「そもそも、どの顧客を対象とするのか?」という論点で、業種を問わず汎用的に確認すべきなのは、毎年の売上をもたらしている新規顧客と継続顧客の比率と数の推移です(図2)。

図2 新規顧客と継続顧客の売上構造を知る

 仮に「毎年の新規顧客からの売上は2億円」と固定すると、2年目に継続する顧客が50%の場合と25%の場合、売上の推移はどのくらい変わるイメージがあるでしょうか? ここでは便宜的に、顧客単価は固定とし、3年目以降の顧客の継続率も80%で固定して考えます(一般的に顧客の継続率は、3年目以降はニーズが充足された顧客が残っていくことで高まっていく傾向があります)。

 5期目同士で比べた答えは、2年目の顧客継続率50%であれば売上は5億4,000万円、2年目の顧客継続率が25%になると3億7,000万円となります。同じ新規顧客売上を上げていても、その差は1.45倍です。10期目であれば、9億4,000万円と5億7,000万円の差となり1.64倍です。「なんだ、2倍も開かないのか?」と思ったかもしれません。ですが、これは新規顧客からの売上を固定化した場合の数字です。

 当然ながら、売上規模においてそれだけの差がつけば、新規顧客の獲得に投資できる金額は数倍の差が開き、顧客側も「会社として評判がよく大きい方」を選びやすくなります。そのため、実際は「勝ちが勝ちを呼ぶ状態」となり、新規顧客の獲得数と売上でさらに大きな売上の差が生まれます。

狙うべき顧客と施策目的を確認し、顧客理解を掘り下げる

 このような基本的な売上構造を確認することで、マーケティングチームとして新規顧客を伸ばすことにリソースを使うのか、それとも継続顧客率を増やすことにリソースを使うのか、戦略的に考える基本動作が可能になります。

 実際にはさらに細かく、顧客を獲得した施策別、顧客を獲得したタイミング別に顧客の継続率を見ると、新規顧客獲得のやり方の問題も発見し、改善できるようになります。

 業態や商材によって平均的な水準は異なりますが、初回購入後の2年目の顧客の継続率、もしくは2回目の購入率が、通常はもっとも大きく数字が下がる部分です。一方、3年目以降もしくは3回目以降はすでにリピート購入している顧客が分母になるため、継続率は高い水準で維持されます。そのため、この2年目、もしくは2回目の購入継続率の数字を改善することが事業成長の基盤になります。

 このように対象とすべき顧客やマーケティング施策の目的を確認しつつ、顧客の理解を掘り下げていくことが、業種を超えた基本動作です(図3)。

図3 マーケティング思考を構成する共通言語1「誰に? 何を? どのように?」

自らの消費体験の蓄積量がセンスを磨く

 「誰に?」の顧客理解と「何を?」の顧客価値は、それぞれの定義の深さと相互の内容が合致する整合性が重要です。この2つの領域は、書籍や研修などによる形式知インプットの量だけではスキルアップを担保できない壁があり、知識の総量は多いが絶望的に筋が悪い人と、知識の総量は少ないが筋が非常に良い人の両方が実際には散見されます。

 顧客理解の素養で重要なのは、「多様性あるさまざまな価値観や生活様式の人と交流した経験」が育てる、「人を相対化して理解する目線」です。顧客価値の整理で重要なのは、「趣味など自分なりにこだわって買った、関与度の高い消費経験の蓄積量」で、顧客が感じる価値を推察するために参照する自分の消費経験の引き出しの多さです。

 これらは形式知の知識では代替が難しい部分のセンスに該当し、磨くことは可能なものの、キャッチアップに時間がかかる部分です。採用の際は、素養の見極めとして重要になります

 マーケティングの手法や技術をたくさん勉強はしているのに、うまく成果が出ない人というのは、この2つに欠けていることが多い印象です(この素養に関して気になる方は、「インサイトの筋の良し悪しを分かつ経験格差を考える」という言葉で検索してみてください。筆者が考察した記事にて、より詳細な解説を読んでいただけます)。

顧客の声を定期的に聞き続ける

 顧客理解も顧客価値も、静止画として捉えるものではありません。顧客ニーズも競合の強みも常に変化していくため、永遠にアップデートし続けていくものです。

 そのためマーケティングにかかわる人は、定期的に顧客の声を直接聞く機会を持つようにしましょう。それらは典型的な「重要度高く、緊急性が低い」仕事に見えるため、マネジメント側は意識して「定例化」しないと、組織にその習慣が根付きません。

 顧客へのヒアリング技術の良し悪しも多少はありますが、回数を重ねていくうちに上達する、というくらいの割り切りをもって経験を重ねたほうが、結果的に顧客理解が深い組織や人材に育ちます

 顧客理解の調査は調査会社に委託するもの、という固定観念は取り去ったほうがいいというのが筆者の考えです。本当に自社ではできない高度なものは調査会社に委託し、そうではないものは内製化して、直接顧客の声に耳を傾ける機会を意識的に増やすのがポイントです。

チームのマーケティング業務が効率化される

 マーケティングにかかわるチームでは、この顧客理解と顧客価値をすべての施策の企画を考える際の判断軸として共有することで、チームのコミュニケーションコストや施策同士の連携コストを下げることにつながります(図4)。

図4 マーケティング業務推進の良い例、悪い例

 この共通理解がないままに、施策の企画・制作に入ってしまうと、実際に多くの工数をかけて商品・サービスや広告が仕上がってきてから「こんな方向性ではない」となり、多大な修正コストが発生します。

 労働時間が長く成果が出ないマーケティングチームの大半は、「誰に?(顧客理解)」と「何を?(顧客価値)」の探索と議論に時間をかけないまま、ひたすら「どのように?(4P施策)」を大量に制作し、社内での大幅修正のフィードバックを受けて工数が積み重なり、おまけに成果が出ないという悪循環のサイクルに入っています。

 施策は、企画して形にするのにコストがかかるだけに「とりあえずつくってみて」ではなく、チームとして「誰に?」「何を?」の基準を入念にすり合わせてから企画をスタートさせることが重要です。それが結果的にチームの工数や外注コストを減らし、成果を高めることにつながります。

 これは、チームの労働時間の短縮にもなり、労務環境の適正化にも大切なポイントで、まさに「急がば回れ」な部分だといえます。成果を出すチームは、この基本が徹底されています。

共通言語2:用語・指標の定義と相場観

現状と課題をすり合わせる道具

 マーケティングチームでは、現状と課題の認識をすり合わせることが大切です。なぜなら、人によって意見の違いに見えるものも、意見の齟齬は、その背景にある現状と課題の理解のバラツキが引き起こしていることが大半だからです。

 チームでの業務推進においては、現状と課題の認識をすり合わせることが、その後の意思決定の合意形成コストを大きく引き下げます。現状と課題をすり合わせる道具として、用語と、判断に用いる指標が有効になります。

 しかし用語と指標は、同じ組織内で定義が異なるまま運用されると、同じ物差しで比較分析できないので、現状の理解もままならないという状況が多発します。それらの定義が事業ごとに異なり、場合によっては同じ事業なのに人によって定義が異なっていて、正しい状況と課題の把握が難しいのもよくある話です。

個々人が知っていてもチームに浸透していなければ意味がない

 図5で紹介している言葉は、用語と指標で定義がぶれがちなものの一例です。すでに用語や指標を知っている、理解している人は「大した話ではない」と感じられるのではないでしょうか。

図5 マーケティング思考を構成する共通言語2「用語・指標の定義と相場観」

 しかし「これらの用語と指標がしっかりとチーム内で統一的に定義され、分析され、自社の事業の現状と課題の理解に活かされていると自信を持っていえますか?」と問われるとどうでしょうか。セミナーでこの話をすると、8割の方が不安な表情を浮かべます。

 また、「言葉は知っているけど、それらの指標はECやD2Cのような事業向けでは? うちの事業はリアルな小売店が販路なので、データが取得しにくいし、関係ないのでは」と思った方もいるのではないでしょうか。

 たとえばBtoCのメーカーなど、小売店を介した販売が中心で、顧客との直接取引が少なく、すべてのデータは容易に取得できない業種も存在します。しかし、数字が取りにくい業種でも、何かしらの方法で(かけられるコストに応じて概算でも良いので)数字を把握しないと、現状と課題の理解を誤り、成果の出ない施策に注力することにもなりかねません

 個々人として用語や指標を知っていることと、それらの定義が共有化され、判断の運用にまで浸透しているチームは、まるで別のレベルです。数字の管理と把握だけでは顧客価値を生むわけではないのも事実ですが、一定レベルの人数やお金を投資する事業フェーズであれば、それらが効率的に成果を生み出しているかを確認し、軌道修正し続けるための指標の運用は重要です。

 事業規模と指標取得のコストのバランスには留意しつつ、一定の労力を割いてでも、これらの定義と運用を整えていくことが大切です。

安定して成果を出すチームほど用語と指標の浸透を大切にしている

 言葉の定義の問題事象の例でいえば、ある企業ではマーケティングの担当者がLTVを売上数値のまま計算し、経営会議で報告していました。しかし財務責任者であるCFOは、LTVの数値は原価を差し引いた粗利だと誤認し、そのまましばらく会議で会話をしていたという笑えない話もあります。

 このように定義が異なると、一歩間違うととても利益回収できないような投資判断をしてしまい、財務に致命傷をもたらす可能性もあります。

 何らかの施策で満塁ホームランで業績向上、という話とは対極的な非常に地道な話ですが、安定して業績を高めるマーケティング巧者といえるチームほど、これらの用語と指標を事業実態に合わせて実効性あるように定義し、しっかりと目標として目指せる数字の相場観を持ち、チームの視界をそろえ、施策を連携させることが習慣化されています。

 数字の相場観は非常に重要です。指標として目指せるレベルの数字の水準がわかっていて、それらをさっと計算して「投資すべきか否か」の判断に必要な概算力を身につけたチームは、マーケティング施策投資のミスジャッジが大幅に減ります。

 数字の相場観は、時代の競争環境でも変わります。業態によってそもそもリピート購買されやすいか、されにくいかなどで顧客の継続率など標準的な相場観は変わるため、一律の基準を示すことが難しい部分です。そこはぜひ、それぞれの業界で相場観を持つ人に聞いたり、自分たちの事業で継続的に数字を確認したりして、相場観を養ってもらえたらと思います。

 また細部のポイントですが、初見の人でも意味が伝わる言葉やグラフを使うことも大切です。数字に強い人は、数字の記憶力もよく、断片の数字を見ただけで時系列や他事業との比較と課題抽出ができますが、チームメンバー全員がそうした人で構成されているわけではありません。

 指標が持つ意味を解釈しやすいように視覚化することは、仕事と判断を属人化させずにチームで進める基盤になります。用語と指標 の定義と運用を共通言語として浸透させることは、チームの視界をそろえ、メンバー個々人の判断レベルを引き上げる成長支援のインフラになることをぜひ覚えておいてください。

共通言語3:事業フェーズ別の考え方

各事業フェーズのポイントと考え方・判断基準

 3つ目の共通言語は、事業フェーズ(段階・局面)の発展別に異なる力点を理解し、どう考えていくかの基本の型です(図6)。事業フェーズの定義や考え方によって個別の企業や事業とはマッチしない部分が多少出ることはありますし、この型を外れた判断で成功した事業もあると思いますが、あくまで汎用性を意識した基本の型として捉えてもらえればと思います。

図6 マーケティング思考を構成する共通言語3「事業フェーズ別の考え方」

 事業フェーズを想像しやすいよう、「0→1」や「1→10」という売上をイメージさせる数字(単位は億円)を入れていますが、これは事業カテゴリ、単価の大小、市場展開の地域範囲によっても大きく異なる部分があり、厳密な数字ではありません。

 感覚的には、日本市場で展開する化粧品のスキンケアアイテムであれば、ちょうど肌感覚と合っている水準の数字です。ただ極端な例を出せば、世界的な大ヒット商品であるiPhoneは2022年10月のAppleの決算発表によると、2022年度の売上は約2,055億ドル、当時の為替で計算すると単一商品で約30兆円もの売上となり、数字の桁が異なる事業もあります。

 しかし、売上数字の桁が異なるiPhoneの売上拡大プロセスを考えても、基本的な判断基準はそれなりに当てはまると思います。次からiPhoneを例に、各フェーズを解説してみます。

iPhoneを例とした事業フェーズの考え方

 事業立ち上げ期は、試行錯誤を伴いながら事業を立ち上げ、画面全面タッチパネル、ブラウザによるパソコンと同様のインターネット接続、アプリといった、既存のガラケーにはまったくない独自性を備えて新規顧客を獲得する段階。

 事業成長の前期は、事業成長の前期として顧客体験の向上を意図し、選ばれない要因となっている細かな欠点理由を穴埋めしながら、強みを伸ばして顧客の満足と継続率を高めていく段階。

 事業成長の後期は、事業成長の後期として、顧客層と価値訴求の複線化を同時に行い、カラーやサイズの商品ラインナップのバリエーションも拡大し、さらに細かく市場シェアを高めていく段階といえるでしょう。

 事業の成熟期・再生期の推察もしたいところですが、iPhoneはまだ年間の売上成長率を10%程度は保っており、成熟期~衰退からの再生期とはいえない状況です。ただ、いつかはこのフェーズに移行するはずです。

 筆者は、Appleが内部で考えていたiPhoneの戦略の実際は知りませんし、この解説はただの後講釈にすぎないのですが、汎用的な考え方のセオリーは覚えておいて損はありません。

 事業フェーズ別の考え方の細部に移る前に、本章の締めとして事業フェーズ全体を俯瞰した変化の力学をお伝えしておきます。

事業フェーズの全体を俯瞰して事業・組織能力・ガバナンスの力学を見る

 まず、事業と顧客層の複雑性ですが、事業は売上規模の拡大とともに顧客層は増え、商材のラインアップも増えて複雑化していきます(図7)。

図7 事業フェーズで変化する事業・組織能力・ガバナンスの構造

 事業の初期フェーズでは、試行錯誤の繰り返しで顧客を獲得し満足を得ていくプロセスとなるため、とにかく試行錯誤を繰り返す量とスピードが大事になりますが、事業規模が拡大していくと、投資するリソースとなる金額や人の数が増えていくため、精緻な計画性と意思決定の精度が大切になります。

 売上が、1,000万円しかないときの収益リターンの2%の差はわずか20万円で、その差に時間をかけすぎても合理性はありません。しかし、事業の売上規模100億円によっての収益リターンの2%の差は、2億円の差になります。売上規模の分母が増えるほど、リソース投資の意思決定の精緻さが求められます。

 意思決定ガバナンスの面でいえば、事業立ち上げの初期は、社内の人数も少ないですし、成功パターンも見つかっていない段階で権限委譲を考えても仕方ありません。まずは、創業者など事業立ち上げのキーパーソンが中央集権で素早く意思決定を繰り返し、試行錯誤のなかで成功に近づけていくのがセオリーです。

 しかし、事業規模が大きくなって事業フェーズが後期になれば、ひとりのキーパーソンがすべての施策を細かく見ることは不可能です。

 そのため大きな意思決定の分岐になる戦略面は、上層部で中央集権的に決めながらも、マーケティング施策の細部は現場メンバーが自律的に意思決定できるように権限委譲していくことが大切になります。

 ちなみに事業や商材の数が少ない場合は、事業規模が大きくても、経営層が直接細部まで目を光らせる方法もありますし、事業や商材の数が多い場合でも、注力すべき事業や商材に絞り込んで経営層が直接指揮する場合もあります。

 このような事業フェーズの違いを理解しておくと、経営層やチームリーダーの大きな方針も整理されますし、現場メンバーもモードチェンジの理由が理解できるようになります。事業フェーズ別の考え方の細部は、次章より説明していきます。

マーケティング思考 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること

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マーケティング思考
業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること

著者:山口義宏
発売日:2023年2月6日(月)
定価:1,760円(本体1,600円+税10%)

本書について

これまで23年間にわたって、スタートアップから大企業までマーケティング支援を一貫して行い、自らも起業して事業を成長させてきた山口義宏さんが、豊富な図解とやさしい語り口で解説します。