舶来の技術書を日本語にて出版す|翔泳社の本
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舶来の技術書を日本語にて出版す 2013.01.07

 ご存知の方も多いとは思いますが、書籍には“右開き”と“左開き”という区分がございます。右開きなら本文は縦書きで左開きなら本文は横書きになります。日本の書き物は長く縦書きが主流でしたが、江戸時代になって横書きも使われるようになったそうです。なにが原因かというと蘭学の流行だそうで。いつの時代も流行に弱いですな、日本人は。

 はじめて日本に左開きの書籍として登場したとされているのが、大槻玄沢の「蘭学階梯」だそうで、これが天明八年のことでございます。西暦で申しますと、えぇと、ひのふのみぃで1788年ですか。つい先日ですね。これはまあ、ラテン語(というかオランダ語)の解説本だそうですから横文字が中心で、そうなると横書き。しからば左開き。ということだそうでございます。

 まあ、語学は左から右に書いてく横書きが当たり前ですから、そういう書物は左開きにならざるを得ません。アラビア語とかヘブライ語だと右から左へ書く横文字ですから、これはちょいと混乱します。モンゴル語も特殊で、こちらは左から右へ、縦に書いていくそうで。こうなると門外漢には左開きになるのか右開きになるのかよくわかりません。作る気配がないので調べませんが。

 そこへいくと、プログラミング書は圧倒的に左開きですな。入力から出力まで左から右の横文字一辺倒ですから迷うことがありません。もっとも映画『マトリックス』に出てくる、スクリーン上に文字が流れ落ちるカットは、あれは「日本なら縦書きでプログラミングをするんじゃね」という誤解のもとに生まれたそうですね。人間の想像力てのは大したもんだ。

 口の悪い奴は西洋伝来の哲学書なんぞを「横の物を縦にしただけじゃねえか」などと腐したもんですが、プログラミング書は横の物を横にしたまんまでいいという、大変に横着な代物でございます。こりゃいいや、などと横着心に思っておりましたが、英語やドイツ語といったリアルな言語と違って、開発言語自体が日々進化していくんですな。

 言語機能だけならまだしも、その時々のトレンドやOSの新機能にまでなびいちゃうから手に負えない。しかも捨てるてえことをしないから増える一方だ。知らない人が話だけ聞いたら汚部屋とかゴミ屋敷を想像しますよ。これ。

 だいたいバージョンが上がった言語を見て「わー、機能の宝石箱やあ」なんて声を聞いたことがありません。現場では捨てずとも使わないという選択もできますが、「使わないよね」なんつって取捨選択して、タイトルに「非完全版!」とか謳った本を作れるかというと、ねえ。

 「断捨離」なんてことを勧めたところでご理解いただけないことは重々承知しておりますので、ここはひとつ、日本語のように「まじ」と「かわいー(または、やばい)」だけで幾千もの機能を提供する言語の開発を可及的速やかに進めていただきたい、と新年早々、800ページを越えるゲラの山を眺めつつ、強く祈念しておるところでございます。

のむら

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