【環境にやさしい本づくり】Vol.2 紙営業士小川様へSDGsについてのインタビュー|翔泳社の本
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【環境にやさしい本づくり】Vol.2 紙営業士小川様へSDGsについてのインタビュー 2023.12.13

こんにちは! SDGsプロジェクトチームの柴田です。
今回は、日頃お世話になっている京橋紙業株式会社小川様にインタビューを行いました。翔泳社を担当いただいて約28年、紙営業歴約33年、紙の話だけで終電まで呑めると仰るほど紙を愛する小川さんに、SDGsについてお話を伺いました!

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柴田:今回、本づくりにおける「紙」にまつわる部分を切り取って、SDGsに関わるお話を伺いたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

小川:よろしくお願いいたします。紙のSDGsに関しては、僕たち紙屋(製紙メーカーが作った紙を販売している会社です)だけでなくて、業界全体で力を入れている分野で、特に製紙メーカーが製品開発と業界のSDGs、環境保護のロードマップ提示をしています。
SDGsという区分になる前から、メーカーさんは環境に対して色々なアプローチをしてきました。実務の面から見て、ユーザーさんの要望がありメーカーさんが応える、もしくは、メーカーさんが提案してユーザーさんが「これはいいね。やってみましょう」というかたちで取り組む。ひとつの商品を売るということもありますし、そうではない動きとして、環境を意識しないでリリースした商品が後年になり環境対応品だと認識されるようなケースもあります。それはやはり、意識してなかった時期があるからこその動きなんでしょうね。紙を作ること=何も意識をしなければ環境にそのままダメージを与えてしまう、という気づきからのスタートで、そこを先人たちが越えてきて、今現在の僕たちはきちんと対策がとられた世界を見て日々を過ごしてきているんですよね。

柴田:紙を作ること、そもそも木を伐採するということに対して、批判的なご意見もあったのでしょうか。

小川:はい。どうしても「森や山の保全を担保するものは何かないのか?」という話があって、検証が必要になるんですよね。そこで、例えば、わかりやすいものでいうと「エコマーク」のような環境ラベル。また「グリーン購入法」という資材を選ぶ際のひとつの調達方針があります。同じような指針は沢山出ており、国によっても色々とございます。紙を作る上で直接は見えない工程を、誰がちゃんとチェックしてくれるのか、という所でお墨付きをもらうということです。

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【環境ラベル】
環境ラベルとは、商品やサービスがどのように環境負荷低減に資するかを教えてくれるマークや目じるしのことです。
(例)エコマーク

↓紙・印刷関連のラベルのご紹介
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/category/paper.html
<引用>環境省大臣官房環境経済.環境ラベル等データベース

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小川:ただ、これらが絶対ではないということは頭の隅に入れておかなくてはならないと思います。今回色々とお話することがあると思うのですが、今現在でのベターな選択というかたちで聞いていただければ幸いです。ベストと言い切りたいんですけどね。今我々が考えているベストというのが、科学が進んだりすることでもっと良い方法が見つかりどんどん変わってきてしまいます。環境にやさしい=木を沢山植えて緑が増えればいいのかというとそれだけではなく、使い終わった紙はどこに行くのか、ゴミになるのか、という問題からの環境対応が必要です。使い終わったもののサイクルをしっかり循環させることはまさしく持続可能、SDGsですよね。まだまだ良い方法は沢山出てくるはずなので、柔軟に考えていくことが一番大事だと思っています。

柴田:柔軟に、広い視野で、考えていくのが大事ですね。バランスを取っていくことも大事そうです。
SDGsの取組みの中で学んだのですが、木から作られる紙の持続可能な生産サイクルについてはぜひ周知したいと思っています。お話をお伺いできますでしょうか。

小川:もちろんです。それは僕も周知したいと思いますね。
まず、木を育てることが林業の一環であるということから周知したいです。「木を植えて良いことをしているのに、なんで切ってしまうの?」と情感的に思われてしまうことが多いんですよね。木は生育期間が長いのでイメージが湧きにくいですが、農業でお米を収穫するのと同じで、林業では木も伐採(収穫)します。一時期メーカーさんが「ツリーファーム」(木の農園)という呼び方をしていました。
最近のCO2 固着(CO2を何らかの形で固定し、とどめることで大気中のCO2を減らすこと)ということで考えると、木はCO2を吸って成長するので、若い木はCO2吸着が非常に早いです。ですが、ある程度大人になった木は成長が止まり安定するため、吸着が止まってしまいます。その頃になると切ってあげて、紙の材料などに生まれ変わらせます。古い木を切ってあいた場所には、また新しい木を植えて……というサイクルになっています。

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【木材の有用性と上手に使う仕組み】
気候変動枠組条約において、木材を紙などの原料として利用すると、CO2を吸収した製品が一定の期間現存することによって、「伐採木材」としてCO2の吸収源に認められています。このように、紙は木材という再生可能な資源から作られるので、地球環境にやさしい資材ということができます。(下図参照)



<引用>日本製紙連合会.“紙と森に関する基本的読本”.日本製紙連合会.2021-03.
https://www.jpa.gr.jp/about/pr/pdf/booklet10.pdf,(参照2022-12-13)

さらに、木材チップは、製紙工場の中で溶解により木材の繊維が取り出されパルプになり、薄くのばし乾燥することで紙となっていきます。その際に出る混合液(黒液)はボイラで石油や石炭の代わりの燃料となり、電気と蒸気を発生させて製紙工場を動かすのに使われます。紙パルプ産業は木材資源を無駄なくカスケード利用する(資源を一度だけの使いきりにせず、その後も別の用途に活用し、利用効率を向上させる)産業なのです。(下図参照)



<引用>日本製紙連合会.“紙と森に関する基本的読本”.日本製紙連合会.2021-03.
https://www.jpa.gr.jp/about/pr/pdf/booklet10.pdf,(参照2022-12-13)

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小川:個人的な話ですが、SDGsで私自身がいい考え方と思っているのは「持続可能性」なんですよね。今、瞬間だけならなんとかできるんですけども、後に繋げなきゃいけない。自分がその手を離す時も次の人がそれを使ってずっと持続していかなきゃいけません。当然といえば当然だけれども、それを長いスパンでって考えるのがSDGs。ようやく来たかとは正直思っています。持続ということはブームではないですよね。どうしても人って飽きてしまうし、疲れてしまいます。「やらなくちゃ」と思って良かれと思ったことを一生懸命やっていると、やってるうちに疲れてしまう。何故ならそればっかり考えて、無理矢理やろうとしているから。それが当たり前になってさえしまえば、使えるも何もそれが当たり前ですから、その当たり前の世界にどう持っていくのかっていうのが課題だと思っています。

柴田:当たり前を作るのは大変そうですが、先人の知見、新しい技術を総力して、コツコツと続けられる仕組みを構築できれば良いなと思います。
現在の日本の製紙業界では、その「当たり前」が既に多くあるように思います。よろしければ是非またお時間をいただき、具体的にどういう取り組みをされているのか詳細をお伺いしたいです。

小川:はい、ぜひ、例えば工場見学で実際の機械や作業を見ながらのご説明など、より詳細をお伝えできればと思います。このように紙についてお考えいただけることは私たちにとって大変嬉しいことですので、いくらでもお話しますよ(笑)
今後とも、よろしくお願いいたします。

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◆京橋紙業株式会社「K’s TO FACE」のご紹介
京橋紙業株式会社Webサイト上で、業界内の方々との対談コラムを連載されています。業務上ではなかなかお聞きできない、勉強になるお話が盛り沢山ですので、みなさま是非ご覧ください!
https://kyobasi.co.jp/column/

SDGsプロジェクトチーム 柴田